国土交通省 近畿地方整備局 京都国道事務所 様
京都観光「地域統合プラットフォーム」構築により、混雑・渋滞など山積する観光課題を“地図”で解決。
世界屈指の観光都市・京都。その圧倒的な魅力ゆえに、長年「観光課題対策」という深刻なジレンマを抱えてきました。特定の人気スポットへの極度な集中、慢性的な交通渋滞、バスに乗れない市民――。
これら複雑に絡み合う課題に対し、国土交通省 京都国道事務所は、行政・観光協会・民間事業者を巻き込んだ一大プロジェクトを始動させました。
その中心にあるのが、2024年11月に本格運用を開始した京都観光デジタルマップ「Kyoto Smart Navi(通称:京スマ)」、そして京スマとシームレスに連携する形で2025年9月に追加された京都駅デジタルマップ「Kyoto Station Smart Navi(通称:駅スマ)」です。
ボールドライトの「プラチナマップ」を基盤に構築されたこの京スマは、単なる観光案内マップではありません。AI、IoT、API連携などの先端技術を駆使し、バラバラだった地域の情報を統合。観光客の「快適な旅」と市民生活の「平穏」の両立を目指す、国内最大級の「観光DXプラットフォーム」です。
本記事では、いかにして地域課題を解決するデジタルインフラとして京スマを構築したのか。その戦略と機能、そしてデータが実証した成果について、インタビューと詳細な内部資料に基づき、京スマについて徹底レポートします。
1. 導入背景:道路から人へ「情報の統合」への挑戦
観光客を迷わせる「情報の分断」
京都にはこれまでも、観光情報、交通情報、混雑情報など、それぞれの課題に対応したWEBサイトやサービスが存在していました。しかし、これらは個別に運用されており、観光客は目的ごとに異なるサイトを検索・閲覧する必要がありました。
・「バスの時間はわかったが、その先の観光地が混んでいるかわからない」
・「駐車場を探してうろついている間に渋滞にはまる」
・「手荷物を預けたいが、どこが空いているかわからない」
こうした情報の分断が、結果として非効率な移動や特定の場所への集中、さらには「うろつき交通」による渋滞を招いていました。
必要なのは、観光客が手元のスマートフォンひとつで、今の状況を把握し、最適な行動を選択できる「情報の統合プラットフォーム」でした。

従来の観光渋滞対策の課題連関図(国交省R6年度資料より)
2. システム選定:「プラチナマップ」の魅力
① 「拡張性」と「API連携」の柔軟さ
担当者が最も重視したのは、単にピンを立てて情報を表示するだけでなく、外部のシステムと柔軟に連携できる「ハブ(接続点)」としての機能です。
・IoT連携:AIカメラやセンサーからのリアルタイムデータを取り込めるか。
・API連携:民間の駐車場システムや配送システムと接続できるか。
・機能統合:将来的に予約・決済機能などを追加し、サービスを拡張できるか。
プラチナマップはこれらの要件を満たし、「後からどんな課題が出てきても柔軟に対応できる」という拡張性の高さが魅力です。
② アプリ不要の「即時性」
観光客、特にインバウンド旅行者に「専用アプリをダウンロードしてもらう」ハードルは極めて高いものです。プラチナマップはブラウザベースで動作するため、駅や観光案内所のポスターにあるQRコードを読み込むだけで、即座にサービスを利用開始できます。この「アクセシビリティの高さ」も魅力の1つです。
3. 京都観光デジタルマップ「京スマ」機能詳解:テクノロジーで解決する3つの課題
「京スマ」は、プラチナマップの標準機能をベースにしつつ、京都特有の課題解決に向けたカスタマイズとシステム連携が実装されています。
【課題1:混雑の緩和】AIとデータで「空いている」を見える化
「京都=どこに行っても混んでいる」というイメージを払拭し、空いている場所・時間への分散(分散型観光)を促すため、徹底した「可視化」を行っています。
・AIカメラによるリアルタイム配信:嵐山や清水寺周辺など主要観光地や、分散をかけたい比較的空いている観光地にAIカメラを設置。プライバシーに配慮した処理を行った上で、現地の状況をマップ上からリアルタイムに配信しています。
・観光快適度マップとの連携:京都市観光協会が提供している過去のデータと現在の人流データを組み合わせた予測システムと連携。エリアごとの「快適度(混雑予測)」をヒートマップのように表示します。
・紅葉・桜の色づき情報の自動配信:WEBスクレイピング技術を用いて自動収集・配信。マップ上で「見頃」のスポットをピンポイントで案内します。

紅葉、駐車場混雑、渋滞情報を1つのマップ上で配信

各課題対策に対する情報発信機能の全体像(国交省R6年度資料より)
【課題2:交通渋滞の抑制】API連携で「うろつき交通」を削減
マイカーによる渋滞、特に駐車場を探して観光地周辺を徘徊する「うろつき交通」は、市民生活にも影響する深刻な問題です。京スマは、民間事業者と連携し、この課題に切り込みました。
・駐車場満空情報のAPI連携:民間駐車場事業者とAPI連携を行い、マップ上で「満車・空車」情報をリアルタイム表示。ドライバーは空いている駐車場へ迷わず直行できます。
・過去の道路渋滞傾向の表示:マップ右上のスイッチひとつで、過去の渋滞状況が分かる交通状況レイヤーを重ねて表示可能です。
・経路検索:「旅行計画」カテゴリーで最適ルートを検索。
・観光バス駐車場予約サービス:清水坂・嵐山・銀閣寺の3施設で京スマ上から予約・決済まで完結。修学旅行向け優先予約枠等も実装され、2026年3月時点で約8,400件の予約を獲得する等、確かな成果を上げています。

混雑する観光地周辺の観光バス駐車場予約・決済を可能に
【課題3:利便性とマナー】手ぶら観光と静穏の確保
大きなスーツケースを持った観光客が市バスに殺到し、市民が乗車できないという問題に対し、「手ぶら観光」の推進は急務でした。
・配送・預かりサービスの予約決済:ヤマト運輸や佐川急便などと連携し、マップ上で手荷物預かり所や配送カウンターの位置を表示。「手ぶら観光サービスの事前予約・決済」まで完結できる仕組みを構築しました。
・メタピン機能による利便性向上:「マナーカテゴリー」では、公衆トイレ、ゴミ箱、喫煙所の位置をピン(メタピン)で表示。観光客が困りがちな情報を網羅することで、利便性向上を図りました。

荷物預かりサービスや、観光時に必須のトイレ・ゴミ箱等の位置情報も統合
4. 連携施策:デジタルマップを起点としたエコシステム
「京スマ」は単体で完結するものではなく、周辺のデジタル施策と連携することで、より強力なエコシステムを形成しています。
認知拡大と回遊の起爆剤「プラチナラリー」
便利なデジタルマップ「京スマ」を作った後、その認知拡大と観光客分散化を目的に、プラチナマップと連携可能なデジタルスタンプラリー「プラチナラリー」を導入。南座公演 歌舞伎『流白浪燦星(ルパン三世)』などのIPとコラボし、生成AIによる写真判定ミッションをフックに、参加者の92%が「普段行かない場所へ行った」と回答する成果を上げました。スタンプラリー開催期間中には、京スマ全体のPV数も約1.6倍に増加しました。

マップの認知と回遊促進のため、AI写真判定機能を活用したスタンプラリーを実施
©モンキー・パンチ ©松竹 ©モンキー・パンチ/TMS・NTV
生成AIを活用したスタンプラリーの具体的な取り組みや成果については、こちらの記事で詳しく解説しています。
駅構内の迷宮を攻略する「駅スマ(メタマップ)」
京都の玄関口である「京都駅」は、その構造の複雑さから「ダンジョン」とも呼ばれます。この駅構内での移動をスムーズにするため、ボールドライトの屋内位置情報ソリューション「メタマップ」を活用した「京都駅デジタルマップ(通称:駅スマ)」も開発されました。
「京スマ」と「駅スマ」はシームレスに連携しており、観光客は「駅に着いてから観光地に行くまで」を途切れなくデジタルでサポートされます。

京スマ・駅スマ連携のポスター
5. 導入成果:データが示す「社会インフラ」への進化
2024年11月の本格運用開始以降、京スマは着実に利用者を伸ばし、京都観光の新たなインフラとして定着しつつあります。

プラチナマップのダッシュボードで常時データを把握
【定量成果】累計100万PVを突破し、定着フェーズへ
2024年11月の運用開始直後からアクセス数は順調に推移し、2026年2月には累計PV数が105万回を突破。特に春や秋の観光シーズンにはアクセスが急増しています。
また、利用者の属性を見ると、日本国内が約半数を占める一方で、台湾、米国、香港など海外からのアクセスも急増しており、多言語対応(日・英・繁・簡・韓)の効果が現れています。

京スマの利用状況推移(国交省R6年度資料より)
約9割が「混雑回避に役立つ」と回答
利用者アンケートでは、約9割(93.2%)が「マップは混雑回避に役立つ(とても役立つ+少し役立つ)」と回答しました。
・「リアルタイムで混んでいる場所がわかるので、空いているエリアを選んで移動できた」
・「駐車場の空き状況がわかるので、計画が立てやすかった」
・「知らなかった観光地を発見できた」

コンテンツの利用状況とユーザー評価(国交省R6年度資料より)
6. 今後の展望
行政(京都市)、DMO(京都市観光協会)、および道路管理者(京都国道事務所)の3者が強固な連携体制を築き、プラットフォームを継続的に共同運営する本プロジェクトは、全国的にも類を見ない先進的な事例として注目を集めています。
これら3者が一体となって京都の多様な観光課題に包括的にアプローチする中で蓄積されたデータや実践的な知見は、次世代の観光施策を立案する上での貴重な基盤となります。今後は、同プラットフォームをさらに発展的に活用し、より広範な関係機関との協働を図りながら、京都における持続可能な観光環境の実現に向けた取り組みがいっそう強力に推進されていくことが期待されます。

様々な角度からデータを分析
国土交通省 近畿地方整備局 京都国道事務所
京都府域における国道の整備・維持管理を担う国土交通省の地方機関。2018年、観光地の慢性的な交通渋滞の解消に向け、ICT・AIを活用したエリア観光渋滞対策の実験・実装を推進する「京都エリア観光渋滞対策実験協議会」を設立(事務局)。京都市・京都府・京都府警察・観光事業者・学識経験者等と連携し、従来の道路・車両への対策に加え、観光客の行動変容を促すソフト対策にも取り組んでいる。2024年11月には観光情報プラットフォーム「京都観光デジタルマップ Kyoto Smart Navi(京スマ)」を開設し、混雑カメラ・駐車場満空情報・手ぶら観光サービス・観光バス駐車場予約等の機能をワンストップで提供。
https://www.kkr.mlit.go.jp/kyoto/


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